1本の日本酒から始まった意志を形にするための起業。トップオブトップの創造で市場拡大に貢献していく 株式会社Clear 代表取締役CEO 生駒龍史様
公開日:2019/8/8 | 最終更新日:2019/8/8
株式会社Clear 代表取締役CEO生駒龍史様に、起業や事業創造時のエピソードについてお話いただきました。
意外にもネガティブな感情から起業を考えはじめた生駒様が、外部参入の少ない日本酒業界でどの様に事業拡大をしていったのか。また、資金調達や経営に対する思考などもうかがっています。
起業の理由をお聞かせください。
大学卒業後にサラリーマンを2年間経験したのですが、そのころから起業願望は持っていました。
わたしは、新卒で入社した会社の上司とそりが合わず、1カ月半程で退職する経験をしています。思い返すとパワハラを受けていたのですが、当時はそんな言葉はなく、気持ちを自分で整えることが難しくて、「多少上司が怖いくらいで会社を辞めてしまったのか自分は…」という挫折感を抱いていました。
その時から、サラリーマンとして組織に属する形ではなく、自分で起業をするしか社会で生きていく道はないのでは…と思うようになりましたね。
退職の挫折がきっかけで起業を考えた?
そのタイミングでしたね。自分でやるしかないという感じで。今思うと、起業を考えたのはネガティブな気持ちからのスタートでした。
とはいえ、食べていかなければいけないので転職をして、働きながら情報を集めていきました。ただ、当時は情報が潤沢ではなかったので、選択肢や方法が分からない状態を1年ほど過ごした後、当時は円高が続いていた要因もあって、並行輸入品の販売が流行っている事を知りました。そしてネットショップを開業したのが最初の起業ですね。
起業後の歩みはどうだったのでしょうか。
開業時はまだ会社に勤めていて、いけそうだと思って会社を辞めましたが、その後ビックリする位うまくいかなかった…。
資金もすぐに底をついたので、バイトを3つ程掛け持ちして自分のネットショップの仕事もする生活をしていました。睡眠時間は2時間位でしたね。
当時20代半ばだったので、刻一刻と自分の市場価値が下がってはいないし、まだ挑戦できるタイミングだと思っていた。思い込みが強い方なので、「いける。やるしかない。」と思っていたんですよね。多少しんどくても楽しかったのだと思います。
そんな最中、東日本大震災がおきてネット通販が停滞していきました。いよいよやばい状況になったときに、実家の酒屋を継ぐことになった大学の同級生から、「日本酒のネット通販を一緒にやらないか。」と声をかけられました。でも、日本酒が全然好きじゃなかったので、「おいしいと思えない商品は売れない。」と断ったんですよね。
断りを入れたのに、なぜ日本酒の事業を拡大していったのでしょうか。
「1本持っていくから、美味しいと思ったらやろう。」と言って持ってきた日本酒がびっくりするほど美味しくて。それまでのネガティブなイメージを全て覆すような…日本酒のいいところを全て表現している酒と出会ったからです。
興味がわいたので、日本酒のマーケットを調べてみると、国内は停滞してはいるけど海外は伸びている。蔵元が世代交代して若返りしているタイミングなど、ポジティブな情報がたくさんあって、チャンスがあるんじゃないかと感じました。
そして、2012年4月に日本酒のサブスクリプションコマース「SAKELIFE」を彼と共に始めます。そして、きちんと法人化しようと2013年2月に設立したのが株式会社Clearです。
その後、2014年6月に日本酒専門のWEBメディア「SAKETIMES」をリリースしていますが、どのような経緯だったのでしょうか。
気付いたら日本酒が大好きになっていたので、日本酒の良さをもっと広げたい思いが強くなったことが、SAKETIMES立ち上げの理由です。
サブスクだと毎月の購入が必要なので、もっとライトに日本酒の魅力に触れてもらって、上流から攻めるにはメディアだなと思いました。立上げのタイミングで、SAKELIFEの事業は共同運営していた同級生の酒屋に任せ、わたしはベンチャーとして新たな事業の拡大をめざす選択をしました。
SAKETIMESの運営で大変だった事はありますか?
日本酒業界の方からの信頼を得ることに苦心しました。
SAKETIMESでは、蔵元を取材して記事を書きます。外部参入の少ない日本酒業界に、酒造りをしたこともない若造が突然現れて、「日本酒のWEBメディアをやりたい。」と言っても訝しく思うのは当たり前です。それを払拭するために2つの事を意識していました。
まずは、メディアとして良質な記事を書き続けること。
これはSAKETIMESのスタッフやライターの功績ですが、誠実にコツコツといい記事を積み上げたので、記事が信頼を生んでくれました。取材をした生の情報を掲載して、「おもしろそう」「飲んでみたい」といったポジティブな態度変容を起こす。いい記事は消費者に伝わることが分かるから、蔵の人の心もつかめたのだと思います。
もう1つは、「ギブ&ギブ」の精神で、信頼を得るために何でもすること。
例えば、「蔵に遊びに来てよ」。と言われても大抵は社交辞令で終わりますが、わたしは仕事を止めてでも日本全国どこへでも行くようにしています。
「遊びに来てよ」「行っていいんですか」の会話は約束です。我々は外から入っている身なので、絶対にこちら側から誠意を表すべきなんですよ。なので、徹底的にギブ&ギブをして、蔵元の人に私の本気度をわかってもらう。このような事は徹底していました。
新しいことへの反発は、もはや生理現象でやらない理由にはならない。この世に存在している全てのものは、誰かが「創りたい」と思った意思でつくられている。必要である仮説と、絶対にやり遂げる意志、適切な努力があれば全て可能です。
昨年リリースした日本酒ブランドSAKE100も、「難しいんじゃないの。」と言われることもありますが、やると決めたので、「できる」と考えています。
あらためて、現在の株式会社Clearの事業内容をお聞かせください。
Clear では、日本最大の日本酒専門メディア「SAKETIMES」の運営と、日本酒ブランド「SAKE100」の提供を行っています。
SAKETIMES | 日本酒をもっと知りたくなるWEBメディア
SAKETIMESは月間約40万人が訪れる国内最大の日本酒専門WEBメディアです。日本酒に対して非常に熱量の高いユーザーが閲覧してくれています。
SAKE100は、「100年誇れる1本を。」の思いで展開している日本酒ブランドです。
世界的にラグジュアリー市場が伸びていて、日本酒の高級思考も高まっています。日本酒の良さを広げて市場の拡大に貢献するためには「トップオブトップ」をつくることが必要なので、自社で開発した高付加価値・高価格帯のオリジナル日本酒の製造販売を開始しました。
Clearのビジョンは、「日本酒の未来をつくる」。現状手掛けているプロダクト以外にも、手法を限定せずビジョンを達成するために必要なことはすべてやろうと考えています。
事業拡大のために資金調達を行ってきて感じたことはありますか。
シードからシリーズAあたりは、想像以上に経営者の人柄や熱意、誠実さを見られるなと感じました。「やり切る信頼感をもてる人間なのか」は思った以上に見てくれていて、本気度が伝わると嬉しく感じていましたね。
また、先方(投資家や担当者)との相性は大切なので、その方へ臆面なく相談ができるかを考えてみてください。
起業は思っている以上にうまくいかない事がたくさんあります。投資家にはいい報告をしたいのが普通ですが、採用がどうとか、資金が不足しそうだとか、マイナスな事は期待を裏切っている様で話しづらい。
でも、事業がうまくいくために必要な相談は全てするべきなんですよね。だからこそ「かっこ悪い相談をこの人にできるか。」を見る事も大切。特に初期は二人三脚みたいなものなので。
起業をするうえで大切だと思うことは何でしょうか。
起業をして経営をしていく上で大切だと思う事は2つあります。
まずは、経営を通して世界に希望を伝え続けること。
誰かの脅威や嫌悪の原因になるのではなく、世界にとって希望となることが大事で、事業を通じて人に希望や幸福を与えるものでなくては、この世に存在する意味がありません。
もう1つは、経営とはリスクを取ることであること。
採用も資金調達も、選択の全てがリスクです。ただ、リスクを取らない限り大きなリターンを得ることはできない。特に、スタートアップは成長することが存在意義でもあるから、適切なタイミングで必要量のリスクを取らないと伸びていきません。
覚悟はやりながら決まるものなので、最初から腹をくくらなくてもいい。わたしも起業前は「日本酒おいしいなぁ。」くらいの気持ちだったのが、やっていく中で降り積もるように覚悟が決まっていきました。
やる前の覚悟なんてたかが知れているんですよ。中途半端に腹をくくる暇があるなら、とにかく行動してみる。深く考えるよりも、一歩を踏み出す方が大きな価値があると思います。
今後の展望をお聞かせください。
一番はビジョンの達成です。短期的には海外進出に力を入れる予定です。現在、SAKETIMESの英語版「SAKETIMES International」はじわじわ順調に伸びています。プロダクト面と情報面の両方から攻めるべきなので、「SAKETIMES」「SAKE100」共にユーザーの拡大と世界各国での影響力を高め、そこから日本酒を消費してもらえる仕組みをつくっていく予定です。
起業家の方にメッセージをお願いします。
事業の相談をされたときによく言うのは、「絶対にうまくいく」という言葉。
自分で本当にやりたい意志があるんだったら、それは出来るからやればいい。わたし自身もすごく大事にしていることだし、起業をして特に感じている部分でもありますね。
行動でしか結果は起きないので、とりあえずやってみて、そして走りながら考えるということに尽きるかなと思います。躊躇しているのであれば、まずは小さな一歩からでも踏み出すことが重要ですね。
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