起業に必要な経験は3つの企業を通して養った。波にのれる事業を創造して「個」が輝く社会を創っていく エニィクルー株式会社 CEO 赤羽貢様

公開日:2019/7/9  |  最終更新日:2019/7/9


エニィクルー株式会社 CEO 赤羽貢様に、起業ストーリーと、いままでのキャリアから起業に役立った事をうかがいました
「将来は起業をして、事業を大きく成長させていきたい」という目的があったからこそ、得たい経験値を明確に認識して、不足している部分を着実に積み上げていくためのキャリアの選択を行い、経験を積まれてきた赤羽様。実際に起業されて2年が経った今、これまでを振り返って「起業にとって大切だと考えること」はなにかをお話して下さいました

起業をした理由をお聞かせください。

父親が事業や投資を行っていた影響が大きいですね

でも、皆さんが想像する裕福な家庭ではなく、オイルショックの影響で投資に失敗したこともあって、結構借金がある貧しい環境で育ちました。その苦しい状況でも両親はしっかりとわたしを育て上げてくれて。その姿を見てわりと小さな頃から、「将来は社長になって、会社を大きくしたい」という思いを抱いていたんです。

苦しい状況であれば「安定」を望みそうですが、逆だったのですね。その後は起業に向けてどのように歩んでいったのでしょうか。

そうですね。その状況に奮起するといいますか…商売とか事業をやりたい思いが強かったです

それからは、大学に進学後、ビジネスの上流から下流までを学びたいと考えて、新卒で商社に入社しました。入社した2000年ごろの日本経済は非常に不況で、勤めていた商社でもリストラクチャリングが実施され、管理職層がごそっといなくなる経験をします。結果的に、若手でも責任あるタスクや、新規プロジェクトを任せてもらえる環境でもあったので、早い段階でいろいろな経験が積めました。

5年ほど勤めて、ある程度ビジネスが出来ると感じたタイミングで、当時日本で勢いのあったYahoo! JAPANに転職しました。

なぜ未経験の領域への転職を決意されたのでしょうか?

次のメインストリームとなるであろう分野がIT産業だったこと。そのなかで、どうせ経験するのであれば一番沸騰しているところがいいと思って選んだ企業がYahoo! JAPANでした産業として下がっていく領域ではなく、基本的に勃興していく、上がっていく産業でやってみるという観点ですね

さまざまな企業と組んで巻き込んでいくソリューションセールスのような仕事を得意としていたので、入社後はショッピングやオークションの「大手法人獲得チーム」へ配属されました。最初は事業部の垣根も分からないので、良くも悪くも無視して半年間ぐらい好き勝手やっていたら、なぜかインターネットがまだよく分からない状態なのに、COO直轄の部隊が立ち上がるタイミングで呼んでいただけて。そこからは横断プロジェクトや全社戦略等のチームにずっといました。

でも、大型提携や経営陣といくら偉そうに戦略を語っていても、それらは巨大なブランドのもと、何千人の優秀な社員がいて初めてできることなんですよね。勤続年数が経つにつれ、自分が最前線に立って自らの手で事業を動かしたい思いが強まっていきました。

そのタイミングで、ミスミの創業者でもある田口さんが代表の「エムアウト」へ転職します。この会社では、新規事業を起こして、ある程度事業を育て上げたら事業売却を行い、その売却益で新たな事業を育てる。0→1の繰り返しをひたすら行っていました。

戦略立案だけではない、手触り感のあるというか…自分でプロダクトを創ってビジネスがしたいと思っていた私にフィットしている環境ではありました。新規事業の可能性をどうやって引き上げていくか、ミドルリスク・ミドルリターンの様なことをやっている企業だったので。普通に考えて、圧倒的に失敗するリスクが高い新規事業をサポートしてくれる組織と仕組みの中で、起業同等のチャレンジができる環境は少ない。その先の起業を見据えて、エムアウトへの転職は意識的に選びましたね。

入社してから3カ月後には事業プランを提出して経営会議で承認をもらい、子会社として法人設立をしました。そして私が代表となって事業を育て、1年で大手への事業譲渡に至りました。

ご自身の起業はどのようなタイミングだったのでしょうか。

アクセラレータープログラムに採択された事をきっかけに、法人設立を行いました

エムアウトを退職後、スタートアップの役員を行いながら、毎週末創業メンバーとなった仲間で集まってビジネスアイデアを議論していました。起案したアイデアを、デジタルガレージが主催するアクセラレータープログラム「Open Network Lab」に応募したんです。そして採択されたことをきっかけに、2017年8月に会社を設立しました。

このプロググラムは、事業プランを猛スピードで進めて、3ヶ月後に投資家100~200社位を前にプレゼンを行うひな形なので、我々を含む採択されたチームは馬車馬のようにゼロから形を創っていきましたね。

そこで現在の事業内容をプレゼンして資金調達をおこなった?

いいえ。実は現在の「Anycrew」になるまでは何度もピボットしているんですよね

あるあるの悩みだと思いますが、事業内容がペインポイントとずれていると判明した時、1回これでやろうねと集まって始めてからピボットの選択をすると、糸の切れたタコというか、どこに行くべきなのか一気に分からなくなる。結構苦難の道が始まりましたね

プログラムではある程度の出資はうけましたが、そこから1年程は検証して、「ニーズないね…」ということを繰り返していました。当然ですが、サービスを生み出さずにピボットしているだけなので、資金は減っていく。なので、チームで資金を稼ぐ意味でも本格的に複業(副業)をしようと始めたのが、プログラムから1年経ったくらいのタイミングでした。

現在もメンバー全員が複業ワーカーという珍しい組織ですよね。

そうですね。個人としては、起業当初から知り合い経由で事業開発コンサルティングの仕事を紹介してもらう形でスタートしていました。

チーム全体で複業しているのは、資金を作る意味もありますが、実際に自ら実践することで、「この事業領域を深く把握する」目的があります。加えて、チームメンバー7人も、外部から参画してもらっている有能な仲間達ですが、彼らにとっては我々の会社が複業先になります。

100%コミットできなくてもチームメンバーの間でミスコミュニケーションが生まれないよう、コミュニケーションツールの運用ルールを工夫したり、みんなで生産性を上げるためのツールには積極的に投資をしています。投資をすることで金額以上のパフォーマンスを上げることができるのなら、使った方がいいと考えていますね。

複業やフリーランスなど、働き方の多様化の波はもう間違いなくきています。リソースが欲しくても信頼できて優秀な人材を探すことは非常に難しい。日本ではその課題を解決しきれているプロダクトがまだ無いと思うんですよね。何より自分たちが困っていたので。そんな点から我々のアプローチが正しいかを検証している段階です。

なるほど。では現在のエニィクルーの事業内容をお聞かせください。

友達経由で依頼が届くリファラル副業サービス | Anycrew

リファラルの仕事・副業マッチングサービス「Anycrew」をメイン事業として手がけています。これは、仕事を探しているフリーランサーや複業を探している会社員と、仕事の担い手を探している企業を、共通の知人を介してマッチングするサービスです。仕事先や仕事の担い手を募集しているところにいきなり連絡するよりも、共通の知人を介することで、応募先の反応率やマッチングの精度を高めることができると考えています。

Anycrewは2019年3月にベータ版をリリースしました。最近は月1ペースでイベントも行っています。

「Startup ☓ フリーランス・複業ワーカー Meetup」というイベントで、外部人材を積極的に活用するスタートアップ企業に登壇をしてもらい、実際にどの様な業務を依頼していて、求めている事などを話してもらい、フリーランスや複業で働く方へのヒントと交流の場を提供しています。

新規事業の立ち上げや大企業での戦略立案、起業、ピボット、複業とさまざまなご経験を振り返り、起業を考えている人にとって大切だと思うことはありますか。

当然ではありますが、経験はあとあと必ずいきることです

私が複業としてコンサルティングの案件を受けているのも、過去のチャレンジの経験があったから。今やっていることが何であっても経験や成果は必ず後に役立つので、まずは目の前の事をしっかりとやり切ってほしいと思います。

また、起業を応援してくれる人を見つけることも大切です。私の場合は共同創業の仲間や家族ですね。起業や新規事業はうまくいかないことだらけで、挫折するポイントがそこら中に転がっています。そんなときに同じ方向を目指してディスカッションできる仲間がいると、とても心強いんです。
家族からも、起業に反対されることは一切ありませんでした。妻に結婚当初から将来像への思いを話していたからかもしれませんが、普通の企業に勤めている方に比べると圧倒的に家を空けることが多くても、ある程度は許してもらっています。家族の理解が得られることも非常に大切ですね。

それから、資金面のマネジメント力も非常に大切です。特に我々の場合は長期間ピボットを続けていたため、経費が出ていくばかりでした。貧すれば鈍するという言葉があるように、資金が少なくなると中長期的な視点で考えることができなくなり、発想が非常に小さくなります。そうならないために、本当にやりたい事業を支えるための資金をどう捻出するか、コストをどうセーブするかといったことを考えることが必要です。

今後の展望をお聞かせください。

実証実験を通し、Anycrewが目指す世界観が本当に受け入れられるのかを今年の早いうちに確認し、本格的なリリースにつなげたいというのが直近の目標です。

将来的には日本を複業をしやすい環境に変えてきたいと考えています。その先には、複業をきっかけとしてその企業に転職するといったことも一般的になればいい。企業にとって、将来的に転職してもらうことも視野に入れながら、仕事の担い手を探すことができる世界になればと思っています。

会社という「枠」に属さなくても、地方や海外にいても同じチームとして活躍し頼りにされたり、経験を積みたい人は複業で経験を積めたりする。つまり、複業等を通じてみんなが自分らしい生き方を実践できて、「個」が輝くからこそ経済成長もする社会を創りたいと思っています

最後に、起業家へメッセージをいただけますか。

起業をしたいと漠然と考えているだけでは、ただ時間が過ぎていくだけです

今の仕事で責任あるポジションを任されたり、家族ができたり、家を買ったりして起業が遠のいてしまいます。「実現したい」と思う事があるのであれば、早いうちに集中的に考えて、本当に起業する必要があるのかどうかの意思決定をしましょう。

もしも自信がないのなら、その理由を明確にして、自信をつけるために必要な経験を積むべきです。何となく怖いと思っていたことも、実際にやってみれば大したことなかったということもあり得ます。起業へのリスクを分解して、それらをひとつずつ潰していく作業を意識的にやってみてください。


エニィクルー株式会社

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