起業本100冊読んで教えを実行したら、駅でかぼちゃを食べさせられた

登録日:2019.7.1  |  最終更新日:2019.9.6



成功者たちの教えが流れ込んでくるぅ~!!!


思わず、そう叫んだ。大量のビジネス書で作ったベッドはゴツゴツと背中を刺激する。今日から、僕の新しい人生が始まる気がした。



~~~~



2019年5月の終わり。僕は無気力に自宅のソファに座っていた。

令和という新しい時代が始まったというのに、僕の人生は何も新しくなっていない。

ニュースサイトでは、同い歳の起業家たちが毎日のように取り上げられていた。年齢も出身大学も僕と同じ起業家は、60億円を越える資金調達をしたらしい。


僕はといえば、60円のお菓子をかじりながら彼の活躍を見守ることしかできない。





僕と彼は同い歳ながら、社会的な注目度も、実力も、経験も、ずいぶん差がついてしまった。

その差は、もう埋めがたいだろう。よほどの幸運や裏技でもない限り、僕は彼と同じだけの成功に恵まれることはない。


部屋で一人、そんなことを考えた。5月にしてはずいぶん暑い日だった。初夏の熱風が窓から入ってくる。もうそろそろエアコンを入れるシーズンかもしれない、と思ったのを覚えている。

突然、突拍子もない考えが頭をよぎった。


起業家が書いた本を大量に読み漁って、教えを全部実行しよう


この世には、成功者が書いたハウツー本がたくさん存在する。

このハウツー本を100冊一気に読んで、全部の教えを抽出すればいい。そして、抽出した全部の教えを忠実に実行すればいい。

天才的なアイデアではないか。なにしろ、成功者100人分のエッセンスを取り入れることができるのだ。100人分のエッセンスを取り入れたなら、100倍成功できるに決まっている


想像してみて欲しい。ホリエモンの100倍成功したなら、一体どうなってしまうのか…?

ホリエモンはビジネス書を30万部売ったが、僕は3000万部売れる

ホリエモンはニッポン放送の株を40%入手して辛くも買収に失敗したが、僕は4000%取得して買収できる

ホリエモンは六本木ヒルズの43階に住んでいたようだが、僕は4300階に住める



ああ。ワクワクしてきた。成功者の100倍成功する人になろう。この家を捨てて、ヒルズの4300階に引っ越そう。

爆買いと、女子高生の視線





早速、本を買いに来た。どこにでもある古本屋だけど、僕の新しい人生のスタート地点だ。このブックオフは、確かに六本木ヒルズの4300階に繋がっている。そう思うと、自然にテンションも上がってくる。


時代錯誤の手動ドアを押すと、ずいぶん軽く開いた。寂れた古本屋の店舗でさえ、新しい成功者の誕生を祝福しているような気がした。





店内を少し歩き回ると、成功者の本だらけだ。成功の果実があちこちに実っていて、今か今かと収穫を待っていた。


考えている暇はない。本のタイトルだけ見て、次々に買い物かごに放り込んでいく。かごはあっという間に満タンになった。



昼下がりの穏やかな住宅街のブックオフ、こんな爆買い中国人みたいな行いをする人間は僕以外にいない。

かごが邪魔で通路をすれ違えなかった女子高生は僕のことを苛立ちと疑問が混ざりあった目で睨みつけた。視線が何よりも雄弁に「こいつ気持ちわりいな」と語っていた。

少し悲しくなったが、すぐに気持ちを立て直した。大丈夫。結果で見返してやろう。僕がニッポン放送の株を4000%取得したら、彼女ももうあんな視線を僕に向けられないはずだ




パンパンの買い物かごをレジに持っていくと、店員さんは4つの袋に分けて入れてくれた。




1万8000円だった。60円の駄菓子を主食としている僕にとってはまあまあの大金だが、六本木ヒルズへの初期投資だと考えると驚くほど安い。成功へのキップがこんなに安く買えるなんて奇跡みたいじゃないか。

財布から2枚の1万円札を渡して、気持ちよく会計を済ませた。



10kgはゆうにあると思われる大量の本を抱えて、帰路につく。



べらぼうに重い上に5月にしては異端の31℃の炎天下の帰り道だったが、どうってことはない。この道の先には成功があるのだ。




家に着いた。100冊のビジネス書を部屋に並べると、さすがに壮観だ。



そして話は、冒頭に戻る。



教えが流れ込んでくるぅ~」と叫んでしまったのは、本が持つパワーのためか、それともエアコンの効いた部屋のパワーのためか、神のみぞ知るところだろう。


Tips:エアコンはすごい

教えを、スプレッドシートにまとめていく



そこからは、読書の日々であった。ひたすらに本を読みながら、教えをスプレッドシートにまとめた


一冊の本に何十と入っている教えを、一つずつ地道にスプレッドシートに書き出していく地味な作業。




こうやって全ての教えをまとめ終わった後、実行してみるという算段である。



また、「○○しろ!」という一つずつの教えではなく、本全体を通して言っていることをメモしたいので、本自体を整理するスプレッドシートも用意した。





とんでもなく時間がかかる作業になったが、毎日地道に少しずつ進めていった。


ちなみに、完成したスプレッドシートがこちらだ。とてつもない労力がかかっているので、ぜひサッと見てみて欲しい。


ビジネス書の一覧データ

※タブで「教えの管理」と「本の管理」という2つのシートが切り替えられるようになっている。


以下、このスプレッドシートを作る様子をダイジェストでお届けしよう。

強烈な主張にビビる

何十冊も読んで主張をまとめていると、ひときわ異彩を放つ教えに出会うことがある。いくつか紹介しよう。



これは斬新だった。「テレビをダラダラ見るな」という教えはたくさんあったが、「一日中見よう」という教えは唯一である。



本のタイトルからしてすごいパターン。この主張ができる胆力は計り知れない。著者、集中力はなくても度胸はあるんだと思う。




今回の企画でトップクラスにすごい教えだった。普通なら「ビジネスとセックスは似ている」と書きそうなものだが、躊躇なく言い切っている。この著者も度胸がすごい。すごい主張ができる人は、例外なく度胸がすごいのだと思う。




言われなくてもする。




そんなことない。



そんなことない。


矛盾が生じる

何百という教えをまとめていくと、相互に矛盾するケースがたくさんあった。

例えばこれ。



恥を知ることが大事」である。

「みんなが恥を知って、自制するのが正しい社会」という教えなのだが、別の本の教えでこういうのがある。



恥をかこう」という教え。どっちやねん


「人の目なんか気にしないで思い切り恥をかけ」という意味なのだが、こんなに真っ向から矛盾されるとどうしようもない。ちゃんと全部実行しようとしているこっちの身にもなって欲しい。



【補足:登場する教えには全て「教えID」をつけてある。これは先述のスプレッドシートの「教えID」に対応している。どの本に登場したのか、どんな文脈で登場したのかが気になる方はぜひスプレッドシートを見てみて欲しい】




他にも、こういうものがあった。



トップを目指せ」である。やるからには何でもトップになるつもりでやれ、「ほどほどでいい」なんて発想は捨てなさい、という教え。

こちらは「今でしょ!」でよく知られる林修先生の著書に出てきた。いかにもストイックな彼らしい教えだが、この後の教えと矛盾している。




うまくなろうとするな」である。また完全な矛盾だ。勘弁してほしい。


思うに、ビジネス本を書く人は軽いノリで「○○しろ!」と言ってるのだろう。どうせ実行する人なんていないんだから、分かりやすいことを言っとけ的な発想が透けて見える。


だけど、いるんだ。全部真に受けて実行しようとしている人間が今ここにいるんだ。あんたらの軽はずみな発言のせいで僕は今パニックになってるんだ。反省してほしい。




また、矛盾とはちょっと違うが、2冊を並べただけですごいインパクトになる本もあった。これだ。



我々は何を食べたらいいんだろう、という気持ちにさせられる。


挑戦を全否定される

また、教えによってこの挑戦自体を全否定されるケースが結構あった。




どうだろう、この全否定感。「成功本を読んでも成功しないぞ」と書いてあった。

成功本で成功しようとしている僕をクリティカルに諌めてきた。ごめん。


というか、お前も成功本ちゃうんか


企画の全否定であると同時に、自己否定でもあるこの教え、読んでいて震えてしまった。



他に、こういうのもあった。




こちらは、ホリエモンの「多動力」に出てくる教えである。

「多動力」は文句なしに流行ビジネス書であると思うのだが、堂々と言い切った。特大ブーメランが頭に刺さっている。

これほど大きいブーメランを投げられるのは熟練のアボリジニとホリエモンだけだと思う。




あと、ガラッと毛色が違うので言うとこれ。




なんと、今回読んだほとんどの本をムダにする教えである。

その幻想をぶち殺す」と言わんばかりに、他の教えを一気に無効化してしまった。

これには僕も面食らった。今まで読んできた本が全てムダだったのか……このままだと僕の挑戦は「なんの成果も!!得られませんでした!!」ということになってしまう。


だが、僕はめげない。たとえ、試みを全否定する教えの数々に心を折られようが最後まで完遂してみせる。

全否定系の教えはとりあえず見なかったことにして、着々と読み進めていった。だが、「これからがほんとうの地獄だ…」ということに、僕はまだ気づいていなかった。

本が似すぎていてツラい

ツラいのは、矛盾する教えが出てくるときでも、挑戦を全否定する教えが出てくるときでもない。同じような教えばかりが連続するときだ。これは本当にキツい。




「稼ぐ」を全面に押し出した本はかなり厳しかった。ほぼ同じこと(しかも、あまり具体性のないこと)ばかり書いてあった。


  • 直感で決断せよ

  • 批判に感謝せよ

  • 友情(人脈)が一番大事な財産


こういう内容の嵐。しかも、教えに付随する事例もすごく薄いのだ。


香港に引っ越そうか日本に住み続けようか悩んでる時に、電車で隣に座っていたオジサンが新聞を読んでいて、デカデカと香港のことが書いてあった。運命的なものを感じた私は香港に行くことにした。その結果、たくさんの友人ができて仕事もうまくいった。あの時に直感を信じてよかった


みたいな感じ。こういうことばかり書いてある似たような本を読み続けるのはかなり厳しい。


この「稼ぐ本ゾーン」が厳しすぎて、僕の心は折れた。


大好きなおじいちゃんの死に立ち会った時と同じ顔をしている。



それでも、かなり戦意喪失しながらも、僕は必死に読み続けた。

さながら、山賊と戦い激流の川を泳いで体力を失いながらも、友のために歩みを続けるメロスのように。


しかし、一人荒野を歩くメロスの元には、更なる災難が訪れる。

僕の心を完全に破壊したのは、次に来た「ゆるふわ自己啓発系ゾーン」である。



  • 身の周りの人に感謝しよう

  • 思考が現実を作る

  • 朝日を浴びて、プラスのエネルギーを蓄えよう

  • 旅に出よう


ページをめくってもめくっても、こういう教えばかりが出てくる。ものすごくキツい。




これらの本、例外なく「感謝」「引き寄せ」「エネルギー」「やってみよう」「リラックス」などの言葉が踊り、こぞってポジティブを推奨してくる。普段読まない本なので一冊は楽しく読めたが、二冊目からは地獄としか言いようがないツラさだった。


あと、「ツラいことが起こるのは、神様が自分にくれたチャンス!」みたいな教えも散見された。僕はお前のせいで今すごくツラいぞ、何のチャンスでもないのに、と思った。



机に突っ伏しながら、絶望を味わう。


僕はなぜこんな不毛な作業を続けているのか、なぜこんなバカげた挑戦を始めてしまったのか、そもそも六本木ヒルズは54階までしかないぞ、そんな後悔の数々が頭をよぎった。

「ネガティブをやめて、負のエネルギーを身体から追い出そう」と手元の本は主張したけれど、全然頭に入ってこない。うるせえよ負のエネルギーってなんだよ。お前ら理系苦手なくせに「負のエネルギー」みたいな理系っぽい言葉使おうとするなボケ。エネルギー量って基本的に正の値しかとらないぞ。負のエネルギーを持つのは現代物理においても存在が確認されていないタキオン粒子などの仮想物質だけなんだけど、体内にタキオン粒子あんの?解剖されて物理学の発展に寄与してきて欲しい。

一筋の光明-絶望からの救い


著者の体内のタキオン粒子について思いを馳せるほど追い込まれていた僕を、一撃で救った教えがこちら。




うん……じゃあ、もういいか。最後まで読まなくていいか。

100冊の内まだ40冊くらいしか読んでないけど、ここで終わりにしよう

だってほら、最後まで読まなくていいんだもんね。

どうせこれ以上読んだってもう同じような教えばっかりだろうし、実行に支障はきたさないでしょう。


そんな考えが頭をよぎる。しかし、自分のプロ意識がそれをあっさりと許してはくれなかった。


妥協していいのか…?僕はプロとしてお金をもらってこの原稿を書いているワケで、こんなところで諦めていいのか…?ダメな人の烙印を押されてしまうんじゃないか…?


この「プロ意識VS終わりたい気持ち」の葛藤を解決するのも、やはりスプレッドシートの中に求めるべきだ。解決してくれる教えを探す。




5秒で見つかった。

よし、ダメな自分も愛おしい。うん、大丈夫だ。途中で投げ出す僕も愛おしい。このまま終わりにしよう。


それにしても、自己啓発本の類は「そのままのあなたでいいんだ」的な教えが多くて便利だ。企画を途中で投げ出しても許してくれる優しさがある。

いざ実行-監視役の招聘

100冊読むのは諦めたとはいえ、スプレッドシートは結構なボリュームのものが完成した。



これを、とりあえず丸一日実行してみることにした。だが、問題が一つある。


スプレッドシートが完成したのは良いものの、僕はこれを制作してるだけでノイローゼになった。実行にあたってスプレッドシートを眺めるのが嫌だ。


そこで、代わりにスプレッドシートに向き合ってくれる人員を呼び出した。





清潔な白いシャツ、感情のない死んだ目、神経質そうな細い指先。

ひと目で、「税務調査」とか「検察官」とかそういう仕事が向いていると分かる。僕の友人の中でも、抜群に小うるさい男だ。



彼には今回、僕がビジネス書の教えに忠実に過ごすための「監視役」をやってもらう。

彼の役割は大きく3つ。


・大まかな一日のスケジュールを考えて、最も多くの教えを実現できるように指導する

・僕が間違った行動を取りそうなときに、「違います!それは○○番の教えに違反します!」と静止する

・ビジネス書の教えを実行できそうなタイミングで「○○番を実行できるので実行してください」と促す



彼の役割について、一つずつ説明していった。




ということで、今説明した3つの役割をやって欲しいわけです



お任せください。ただ一つ確認しておきたいんですが……堀元さんはこちらに絶対服従ということでいいんですよね?




ま、まあ……そうなるかな。監視役の言うことを無視してたら意味なくなっちゃうので。



分かりました。それなら全力でやらせて頂きます。



やる気溢れる言葉に似合わず、彼の目は死んでいた。冷たい目線が怖い。

何か取り返しのつかないことを頼んでしまったような気がしてきたが、今更引くことはできない。

不安が募る中、一日は動き出した。梅雨の東京、外は薄暗い。雨の音はしないけれど、いつ降り出してもおかしくない曇天だった。


スプレッドシートの共有と作戦会議


作ったスプレッドシートを送ると、彼はすごい勢いで全ての教えに目を通していく。



なるほど…これはバチバチにスケジュールを組んで効率よく動かないといけませんね。



頼もしい…!僕は正直もうスプレッドシートを見たくもないので、スケジュール考えるのをお任せしたい!



分かりました。ちょっと20分お待ちください。ベストなスケジュールを考えます。ちなみに、なんとなくの今日の予定ってどうなってますか?



午前中は何もなし。昼にライター仲間とランチの予定があるのと、夜に恩師である経営者と会食の予定があるね。スキマ時間になる夕方はカフェで仕事しようと思ってました。


分かりました。ではそれを踏まえてやっていくことを考えますね。




「完璧なスケジュールを組みます!!」と宣言して、彼はスプレッドシートを見ながらキーボードを叩き始めた。

そして、準備が必要だと言いながら買い物に行ったりしていた。頼れる男である。



スケジュールの確定、朝という名の地獄


スケジュール、組み終わりました。早速実行していきましょう。


早いね。さすがだ。


いきなりなんですけど、堀元さんって今日どうやって起きました


質問の意味が全然分からない…。普通に起きたよ。



じゃあやり直しましょう。これがあるので。





あったっけこんなの?すごい主張だな。



勢いよく起きないといけないので、ベッドに戻ってください。そしてすごい勢いで起きてください




行くよ。



はい。





バサッ!!!!



はい、じゃあ次はですね……



なんかリアクションしてくれよ



僕の渾身の布団バサッは見事にスルーされた。彼は目が死んでいるだけじゃない。人の心も死んでいるのかもしれない。

ウケるかなと思って全力でやったことがスルーされると、人は大きなダメージを負う。今日一日、能面のような彼の表情に苦しみ続けることを、この時の僕はまだ分かっていなかった。



次は、外に出ます。外に出ないとやれない朝のタスクがたくさんあるので。


促されるまま、外に出た。


まず、自動的にこれクリアですね。





これはまあ妥当な感じがする教えだね。



あと、「朝に散歩しろ」っていう教えも何冊かに出てきたので一気にクリアですね。



効率いいね。



あとは……あっ!!ありました!!!




木です



木…?木が何…??そんな教えあったっけ?



これですね。





え、僕、樹と語り合うの?



そうですよ。


なんでそんなことすんの?



樹は、朝、自分に語りかけてくれる人をご主人と思うのです」って書いてありますね。


樹に、ご主人だと思われる必要ある?



「そうすれば、近所が全てあなたの庭になります」って書いてありますよ。



だから、近所を全て僕の庭にする必要ある?



いいからさっさと樹に話しかけてください。




「あの、元気っすか…?その、苔の感じとか…いい感じですね。緑って落ち着きますよね。僕も今日緑着てきたんですよ」


「樹に話しかける」という行動が完全に初体験なので、探り探りである。話題がなさすぎて、樹を相手にうっかりファッションの話をしてしまった。



はいOKです。次行きましょう。



だから、せめて一言リアクションをくれよ。



僕の話し相手は、樹と能面。何をやってもリアクションをくれない話し相手たちに挟まれながら、体力が着々と削られていくのを感じた。



その後も、移動しながら


  • 大きな声で挨拶する

  • いつもと違う道を歩いてみる

  • 毎朝見かける人に話しかける

  • 遊ぶ

  • 遠くの景色を見る


などの指令を受けて遂行していった。

部屋に戻ってくる頃には、僕はすっかりグッタリしていた。



「疲れた~。朝早かったから眠いし。ちょっと休もう」




「ダメです。」






そんなことねえだろ。



僕もそう思いますが、スプレッドシートは絶対です。



Tips:睡眠時間が足りない人は1人もいません




次に、コップ3杯の水を飲んだり、テレビを見たり、夢日記をつけたりしてください。



朝やること多くない!?



さっき数えたんですけど、朝関係の教えだけで100個くらいありました。朝が一番鬼門ですね。


みんな朝を過大評価しすぎでは…?



そうですね。こういうのもありました。





そんなことねえだろ。



僕もそう思いますが、スプレッドシートは絶対です。


Tips:チャンスは、朝しかつかめない



ということで、朝のうちに


  • コップ3杯の水を飲む

  • 朝のテーマ曲を流す

  • テレビを見る

  • 仕事をする

  • 深呼吸をする

  • 芸術活動をする

  • 夢日記をつける

  • 悩み事について考える

  • 鏡の中の自分に笑いかける


などの膨大なタスクをやらされた。監視役が異常なペースで次の行動を促してくるので、一つのタスクにかかった時間は平均1分だと思う。


地味に一番キツかったのは、コップ3杯の水だった。



多分1.5Lくらい飲まされた。なんで大きめのコップ持ってきたんだよという怒りが抑えられない。


この時、既に時刻は11時を回っている。朝のタスクが多すぎて昼にはみ出して来ている



ちょっ…!朝忙しすぎない!?しょうもねえタスクばっかりだし。大の男が「鏡の中の自分に笑いかける」って気持ち悪いよ。あと、お腹がチャポチャポで気持ち悪い



おっ。文句いっぱい言ってますね。普段よりストレスが多いですか?



そりゃそうだろ。



分かりました。これをどうぞ。





……何これ???





かぼちゃのそぼろあんかけ」です








ストレスが普段より多いなら、かぼちゃのそぼろあんかけをどうぞ。




すごい教えだ。「かぼちゃを食べなさい」くらいならまだ分かるけど、なぜメニューを厳密に指定してるんだろう



かぼちゃのそぼろあんかけ、用意するの面倒でしたよ。売ってないから市販のかぼちゃとレトルト餡とそぼろを組み合わせて作りました。



かぼちゃのそぼろあんかけ、あんまり見ない文字列だもんね。お惣菜コーナーに売ってる気がしない。



でもかぼちゃのそぼろあんかけは必須じゃないですか。何しろ今日の堀元さんは絶対ストレスだらけだし、かぼちゃのそぼろあんかけを口にする機会は多いだろうと思ったので、複数の商品を組み合わせてでもかぼちゃのそぼろあんかけを作ろうと思ったんですよ。



「かぼちゃのそぼろあんかけ」をゲシュタルト崩壊させようとするのやめろ



食べてみる




どうですか?



うん……なんというかこう……味にまとまりがないね。かぼちゃの煮付けにそぼろと餡をかけたな、という感じがする。



その通りですからね


Tips:バラバラの商品を買って組み合わせると、まとまりがない味になる

ランチへ移動-抗議を封じるシステム



もう移動しないとランチの予定に間に合わない。



行きましょう。「遅刻はダメ」みたいな教えもあったので、遅刻はまずいです。



朝のタスクが多すぎて、午前中をまるごと使ってしまった。慌てて駅に移動して、ランチの約束へ向かう。


道中、スマホを没収されるというトラブルがあった。





繰り返しになるが、ビジネス書の著者、軽いノリで「強い主張書いとけ」ってやるのやめて欲しい。お前がテキトウなこと書いたせいで、彼は僕からスマホを奪っていったぞ



スマホは取られると生活に支障をきたすので、「それはさすがにない」と強く抗議したのだが、その結果はこうなった。



ストレスを表に出すとかぼちゃのそぼろあんかけを食べさせられるというシステムが成立してしまった。これは結構キツい。美味しくないという意味でもキツいし、渋谷を歩く人々に「どういうコンセプトの撮影!?」と注目されるという意味でもキツい。


通りすがりの大学生4人組は「独特の世界観がウリのインディーズバンドかな」と言っていた。

確かに、上の写真をしばらく見ていると、一部の人にカルト的人気を誇ったまま3rdアルバムまで出して解散するバンドの歌詞カードに使われているメッセージが分からない写真に見えなくもない。



ランチの店へ

スマホを奪われて今日のランチ相手と合流できるか不安だったが、無事に合流できた。




ライター仲間の「ニッチほそかわ(@nichebito )」である。



お待たせしました!!!



いえいえ。行きましょうか。


お腹減った~!堀元さんも結構お腹減ってますよね?



いや、結構お腹いっぱいなんだよね。



ん?何か食べたんですか?


1.5Lの水と、かぼちゃのそぼろあんかけを。



???何、その食生活?????



こっちが聞きてえわ。



「行列」という罠


日曜、昼時、渋谷。あちこちに人溜まりができている。中でもひときわ目を引く行列店の前で、彼女は立ち止まった。





この行列店、美味しいんですよ。並びましょう!


はいよ。



行列に並びながら、談笑。久しぶりに会ったので、近況を話し始めた。




即座に、監視役が割り込んできた。


突然張り切る監視役。お前さっきまでそんなんしてなかっただろ。



行列はダメですね。






時給を払って並んでもらってください。


じゃあ僕はカフェにでも行って作業してくるから…



これで頼むわ。


お金を受け取ると、彼女の表情は見る見る曇っていった。


え……いやいやいや……。



近くのスタバにいるから、順番来たら連絡よろしく



え、ホントに行くんですか!?



うん。



え…何なん…??



この時、既に僕の心は鬼になっていた。淡々と指示をこなすマシーンである。指令に嫌な顔をしてかぼちゃのそぼろあんかけを食べさせられるのを避けたいので、言われた通りやる。

駅の中でさえ、かぼちゃのそぼろあんかけを食べる姿は異様である。ましてや、行列店の行列に並びながら食べるのは絶対に嫌だ。



分かりました分かりました。すぐ入れる店でいいので、並ぶのやめましょう。



お、了解です!んじゃその辺のファミレスとかでいいか。



マジ何なんこいつ……



距離感のファミレス




すっかりご機嫌ナナメになってしまった彼女のフォローをすべく、身を削って盛り上がりそうな話をしていく。僕がかつて、学生時代に意識の高さが限界突破して痛々しい学生だった時の失敗談をした。


すると、少しだけ彼女の機嫌が直った。彼女は、「昔、意識高い系男に口説かれた経験」について話し始める。


その意識高い系男がホントに最悪だったんですよ!!ずっと上から目線で喋るし、「女って○○だよね」みたいな物言いも癇に障るし……


テンションが下がって口数が減っていた彼女だが、楽しそうに悪口を喋り始めた。よかった、地獄の空気からのリカバリーに成功したかもしれない。


安心したのもつかの間、すぐにまた監視役からの指示が飛んだ。



あ、ちょっと離れてください。







マイナスの言葉はダメです。身体にマイナスのエネルギーが溜まってしまいます



ええ~、聞き役に回ってるならよくない?



ダメです。嫌な言葉に囲まれ続けると魂のステージが下がってしまいます




んじゃどうすればいいの?



距離を取ってください。





「うんうん。それでそれで?」と言いながらだんだん距離を空けていく図。


「おかしなヤツとは距離を取る」という指令に従って距離を取った。直りかけていた彼女の機嫌はまた悪くなっていった。

「おかしなヤツ」は彼女でなく、明らかに僕の方である


ランチの終わり、最後の関門



そこから、特に取り返せないままランチが終了した。彼女の機嫌は悪くなるばかりだ。


指令とは無関係に僕がエスカルゴを食べているのを見て、「エスカルゴ食べてる…気持ち悪い」と引いていたのが一番ツラかった。指令のせいだという言い訳が効かないから、普通に引くのはやめてほしい



店を出る。彼女は「ようやく解放される」と思っているだろう。本当に申し訳ないことをした。


僕も彼女も得しないランチ会を終えて、帰り道を行く。

しかし、僕たちの行く先にはこの男がまたも立ちはだかった。




帰っちゃダメですよ。



何?




今晩どう?」って誘ってみましょう。



絶対やだよ。なんでこの空気でそんなことしないといけないんだ。



あ、でも大丈夫ですよ。この教えもあります。




2つをミックスして、「僕は避妊しないけど、今晩どう?」って聞けばいいんですよ。



いいんですよ、じゃないよ。何もよくないよ。




いいから早く。かぼちゃのそぼろあんかけが出ますよ


ほそかわちゃん今晩どう?僕避妊しないけど。


はあ??????




イテッ!



彼女の返答は、ローキックであった。めちゃくちゃ地味な攻撃方法である。


ビンタとかパンチとか、いくらでも画像が映える攻撃方法がある中で、まさかのローキック


実は、彼女には元々「今日は機嫌を損ねるかもしれないから、不快感がピークになったら攻撃してほしい」とお願いしていた。殴られたら絵として面白いなと思ったからだ。

当然、そのためには派手な攻撃が好ましい。派手に顔を叩かれて倒れるみたいなものを期待していた。


だが、彼女から出てきたのはローキックだった。派手に倒れることはない、膝から崩れ落ちるタイプの攻撃

思うに、人は本当に不快な時、地味な攻撃を好むのではないだろうか。「ビンタ」などという、ドラマやマンガで偶像化された攻撃方法は望まない。そんな攻撃をしてしまったら、相手は悲劇の登場人物を気取ることができてしまう。

そんな隙を一切与えない無情な攻撃。それがローキックだ。受けた相手は悲劇に酔うこともできず、ただうずくまるだけだ。


僕も、「イテッ!」と言ってうずくまって終了した。蹴りを受けた足の付け根はじんわりとした鈍い痛みが続き、丸一日が経過した現在もじんわり痛い。彼女の「バエない」攻撃は、地味ながら僕に大きなダメージを残した。

皆さんも、不快な相手への攻撃はビンタとかじゃなくローキックをオススメしたい。足元の地味なダメージは、とても後を引くツラさだから。



ローキックの痛みにうずくまっていると、監視役が近づいてきた。彼は僕の身体を無造作に掴んで、上に引き上げた。

ちゃんと立って見送ってくださいね。





林修先生の本にはっきり書いてありますから。


林修先生、ローキック受けた直後を想定して書いてねえだろ



Tips:人が本当に腹がたった時は「ローキック」
Tips:林修先生はローキックを受けた直後を想定していない

カフェでできる唯一のこと

ランチを終えてから、カフェに来た。



溜まっていた税務処理をやろうとしたら、すぐに止められた。



一つの作業に集中しないでください。同時に色々進めないと。



え、じゃあまあメールの返信でもしながらやるか。



あ、でも待ってください。これもあります。





もう何もできないじゃん


確かに、ここまで矛盾されるとどうしようもないですよね。



矛盾する教えということで、無視するしかないんじゃない?



いや、「タスク」っぽくないことをやればいいと思うんですよ。



というと?




写経」です。



えっ。僕写経するためにわざわざ電源と無線完備のカフェに来たの



そういうことになりますね。


めちゃくちゃめんどくせえ……


写経、初めてやったのだけれど、とてもめんどくさかった。普段書かない漢字の嵐だったので、確認にいちいち時間がかかる。

こんな面倒なことを好んでやる人間がいるのも信じがたいし、僕はこれをやるためにわざわざ電源無線完備のカフェまで歩いてきてコーヒー代を出しているということも信じがたかった。


それでも、終わったときにはそれなりの達成感がある。



終わった!!



はーい、おつかれした~。



頼むから興味を持ってくれ。



【Tips:写経を監視するのは飽きる】


夜-恩を仇で返す飲み会


この日の夜は、ずいぶん前から楽しみにしていた飲み会だった。



大きなハイボールグラスを楽しそうに持ち上げる彼は、昔からお世話になっていた恩師だ。かつて、家を世話してくれたり仕事をくれたりした経営者である。フリーランス1年目、仕事のまるでなかった僕が生きていけたのは彼のおかげだと思う。


今日は久しぶりに彼と酒を酌み交わす。事業の展望の話や、人生の話をじっくりできると思っていた。


だが、居酒屋メシはとにかく教えに抵触する。ゆっくり喋るどころではない。


















とても失礼な話である。恩師が食べているものを何一つ一緒に食べられない


挙げ句の果てに、この教えだ。



僕と彼は、とても親しい。付き合いはもう4年になる。一緒に仕事をしていたこともあるし、そうでない時期もよく飲みに行っている。

したがって、40分で帰らなければならない



僕が帰るところを見守る彼の表情は、見たことないくらいのガッカリ顔だった。


そりゃそうだ。ちょっと前まで何でもニコニコ食べていたはずのヤツが急に「それは発がん性がある」「柔らかい鶏肉は薬が注入されている」「塩分が日本人を滅ぼす」とか言い出したら、誰だって気分が悪くなる。

挙句の果てに40分で帰ったら、気分を害するどころの騒ぎではないだろう。


恩師にはいつか恩返しをしたいと思いながら生きてきたが、今回は完全に恩を仇で返す形になってしまった。


Tips:フレンチフライを食べるときは、ガンを覚悟する

そして、結論へ…


夜も更けた。ネオンの鮮やかさが目に痛い。休日夜のスクランブル交差点は、遊び疲れて帰る人と夜遊びに繰り出す人が入れ替わる交換所だ。


用事も全て終わったし、今日はもう終わりだな、と思いながら駅に向かった。僕もまた、疲れて帰る人の一人である。


もうすっかり夜だし、終わりだね。



待ってください。最後に大きなタスクが残っています。




旅に出ること」です。







かなりの量の本が「旅に出ろ」と言ってますから、これをやらずに終わるワケには行きません。


そんなこと言ったって、もう夜遅いよ。



金曜の夜から旅に出ることを推奨している本もありましたから、その言い訳は聞きません。



旅…?一日動き回って疲れてるのに、ここから旅……??



早く行ってください。絶対服従だと誓ったでしょ。少なくとも静岡くらいまでは行かないとダメですよ。




彼に、何を言ってもムダだ。

観念した僕は、改札に向かって歩き出した。



頭の中は、後悔でいっぱいである。なぜこんなバカな挑戦を始めてしまったのか。

なぜこの男に、絶対服従を誓ってしまったのか。



いや、そもそもなぜ、僕は成功したいなんて思ってしまったんだろう。

人間には分相応というものがあるじゃないか。それなりに楽しく生きていければそれでよかったはずなのに、僕は100人分の成功なんてバカなものを望んでしまった。



100冊のビジネス書を読んだって、100人分の成功なんて待っていなかった。

それどころか、女友達にとんでもないセクハラをして、恩師を呆れさせてしまった。僕はたった一日で、色々な人の信頼を失った。



信頼を失った代わりに得たものはといえば、樹に話しかける経験や、写経をした経験かぼちゃのそぼろあんかけを駅のホームで食べる経験だけだ。今後の人生で活かしようのないゴミばかりだ。


僕は、どうすればよかったのだろう。



旅に出るワクワク感なんて微塵もない。僕の頭の中は絶えず自問が続いていた。


なぜ僕はこんな目にあっているのだろう。


僕は、どうすればよかったのだろう。僕は、これからどうすればいいのだろう。








ライター:堀元見

ブログ:こっちは遊びでやってんだよ!


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